最終更新日

パンドラ──最初の女

プロメテウスの火盗みについて記録したので、それを前日譚とする、パンドラの物語についても見ておきます。

ゼウスは人間をこらしめるためにパンドラという最初の女を創造して、あらゆる災いを閉じ込めた壺と共に人間界に送ります。それまでは、地上にいる人間とは男だけだったというのです。神々が様々な能力を与えてパンドラという存在を創ったので、「パンドラ」とは「全ての(パン)贈り物(ドロン)」に由来しています。

地上に送られたパンドラは、プロメテウスの弟エピメテウスと暮らし始めるのですが、先だって持ってきた「壺」を決してあけないようにとゼウスに言いつけられていました。しかし全能のゼウスはパンドラが壺をあけてしまうことを見越してもいたのでしょう。パンドラは好奇心から壺をあけ、壺の中に入れられていた病苦などのあらゆる災厄が飛び出し、世界に広まってしまったのです。

この物語は、そもそも人間とは「男」で、「女」は後から誕生した、しかも世の不幸は女がもたらした、という考えを表しています。聖書でも神はアダムという男を創造し、後から女のイヴを創造したとされており、本来の人間は男だけだと宣言するような話は、ギリシア神話と聖書において一致しているのです。ここには古代の男性中心社会の発想が色濃く影を落としているといえるでしょう(ちなみに、DNAレベルでいうと人間は本来「女」なのであり、「男」は副次的な存在と考えられるのですが)。

この神話を伝えたのは前8世紀頃の詩人ヘシオドス。彼がそもそも「女嫌い」だったともいわれるのですが、パンドラの物語が広まっていたことから、男性優位の世界観が社会全体に存在していたことが窺えます。

ところで、パンドラの「箱」じゃないの?と思う人がけっこういるのでは。一般に広まっている「パンドラの箱」という表現は、オランダの人文主義者エラスムス(1469頃~1536)が、ギリシア語で壺や甕を意味する「ピトス pithos」を、ラテン語で箱を意味する「ピクシス pyxis」と訳してしまったことから広まりました。よって本来は「パンドラの壺(甕)」が正しいのです。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトは reCAPTCHA で保護されており、Google の プライバシーポリシー利用規約が適用されます。

コメントする