アーカイブとしての神話(1)

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今後も、神話の諸要素がさまざまなところに受け継がれているという例を発見・記録・紹介し続けていくにあたって、「そもそもどうして大昔の神話が継承され続けているのか」、例として取りあげることが多いポップカルチャーを念頭に、その理由・背景についてもまとめておこうと思いました(ここではまずギリシア神話を意識して話しますが、北欧神話など世界の古来の諸神話に共通する点もあるでしょう)。

大昔のギリシア神話がなぜ今にいたるまで受け継がれているのか、まず端的にいえば、西洋においてよく知られているから、何かにつけて参照されるのは当然だという見方があるのでは。もちろんそれは大前提としてふまえつつ、さらなる要因を探ってみたいのです。

人間は普遍的に、諸現象を神格化したり擬人化したり、万物にイメージで個性を与えたり、特別な存在である英雄が活躍する物語に心躍らせたりしてきました。そして現代、文化の大衆化、ポップカルチャーの発展に伴って、こうした営為についての表現方法や楽しみ方が多様化し続けています。また、何らかの創作活動によって自己表現しようとする者たちが、プロだけでなくアマチュアとしても増え続けてもいます。こうした活動は、たとえば創作投稿サイト Archives of Our Own のように、インターネットを駆使した情報発信・受信がますます容易になっていくのに伴い、衰えることなく活発になっていくと予想されます。しかも現代は、なかなか失速しない大衆消費社会。次から次へと生み出される商品に付与するイメージや、娯楽としての物語そして登場するキャラクターたちを、大量に必要としているのです。

それらの想像・創造が、無限に湧き出してくるわけではないでしょう。作者にとって着想源が必要ですし、創作活動には絶えざる模倣という面もあります。それに、何かイメージ表現を用いて情報を発信するとして、受け手と想定される人々にとって全くなじみがない新しいものを用いるよりも、関連する情報が前提としてある程度知られているイメージの方が望ましい場合も多いはず。予備知識があれば理解してもらうのが容易で、興味を喚起しやすいかもしれないからです。一方、あえて知られている筋書きやイメージを示唆しておいて、それを裏切ることで驚かせるような演出もときに有効でしょう。

そして、物語とイメージとを大量消費する現代ならばなおさら、何か一つを生み出して終わりということにはなりませんよね。たとえば映画が大ヒットしたならば続編を製作することに。すると、ますます多くのキャラクターやストーリー展開が必要で、あらためて参照元が求められます。そうした事態も想定し、創作を広げていくための助けとして、諸要素が体系化された世界観が最初から念頭にあった方が望ましくもあります。

以上のような点で有益な着想源・参照元であり続けるのが、人類の遺産たる神話であり、なかでも西洋を中心に世界的によく知られたギリシア神話なのです。

そこには、物語、イメージ、キャラクターなどの大量消費のニーズに応える、豊富なストックがあります。ギリシア神話は、一人の王や一つの国の意図に沿って統一的に編集されたわけではないし、正典にまとめられてもいません。各地の言い伝え、権力者の意向、詩人や著述家や壺絵作家の解釈・改変・創作付加などを絶えず反映しながら、多様な物語が生み出されました。だから数多くの異伝・矛盾も生じているのですが、それゆえ、物語とイメージがたいへん豊かでもあります。→続く

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