ギリシア神話の「フレキシビリティ」(3)

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その利用のしやすさが、ギリシア神話継承の大きな理由の一つではないか、という話をさらに別角度から。

科学的・合理的世界観のもとに生きる多くの現代人は、怪物も神々も人間の想像が生み出したもので、実在はしないと考えています。こう思いつつ、いや思うからこそ、我々は想像の世界を楽しみもするのですが、そのような合理的見方にも符合するように、神話を題材としながら神々の顕現は捨象し、歴史性ある人間としての英雄に焦点をあてて物語を脚色することもありうるでしょう。本来は多くの神々が登場して英雄たちに直接的な影響を及ぼす物語を、人間中心に描き直した映画『トロイ』(2004年)がその代表例。

※トロイア戦争の物語の継承、および映画『トロイ』について詳しくは、Martin M. Winkler (ed.), Troy: From Homer’s Iliad to Hollywood Epic, Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2007。

また、映画『ヘラクレス』(2014年)は、英雄の怪物退治やヘラクレスの神化も、「創られた物語」として説明していました。フィクション作品における神々の顕現、怪物の登場に心躍らせる者もいれば、あくまで人間を中心に据えた描写の方に共感する向きもあるでしょう。世界を市場とするハリウッドの映画作品としては、人間中心でわかりやすく、諸宗教の思想に抵触しないような、こうした描き方も必要・有効であるはず。

そして、たとえば神々を捨象することで物語が単純に深みを失うというものでもない。『トロイ』は、人間による争いの連鎖の虚しさを描く普遍的物語へと昇華していたともいえますし、『ヘラクレス』は、人間視点で神話の成り立ちを掘り下げ、神話をある意味リアルに感じさせてもいました。

このように、脚色しやすい英雄物語がギリシア神話に多いというのも、継承の要因の一つだと思うのです。→続く

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