五時代の説話

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前8世紀の詩人ヘシオドスによると、人間の歩みは五つの時代に分けられています(『仕事と日』106行以下)。

最初がティタン神族のクロノスの時代。この時代の人間は正しく高潔で神のように暮らしたとされ、「黄金の時代」と呼ばれます。この言葉の影響で、現代でも繁栄を「黄金時代 Golden Age」と表現するのです。

次は、オリュンポス神族が世界を治めるようになった「銀の時代」。人間は強欲になり、神々を敬わなかったため、主神ゼウスが彼らを滅ぼしてしまったといいます。

そこでゼウスは青銅の種族を創造し、「青銅の時代」となるのですが、彼らは暴力的で、互いに争い滅んでいきました。整合的に理解しようとするなら、この時代の終わりが「デウカリオンの洪水」(こちらを参照)にあたるはずですが、そうした対応についてヘシオドスは明確には語っていません。

その後に続くのが「英雄の時代」。この時代には、のちに物語が語り継がれることになる偉大な英雄たちが数多く現れました。しかし人類全体の堕落は止まらず、トロイア戦争などの争いによって衰えてしまったのです。

最後に到来したのが「鉄の時代」。神話を語る詩人たちは、この時代こそ、徳を失った今の人間が生きる時代と捉えていたのです。

現代から見てギリシアの青銅器時代末期と捉えられるのは、神話の英雄が活躍したとギリシア人が想像していた時代。その後、ヘシオドスの時代(前8世紀頃)にはすでに鉄が普及していました。つまり、青銅、英雄、鉄という時代名は、実際の時代の移り変わりにある程度は対応しているといえます。

なお、近代の科学文明発展のもとに「進歩」の世界観が広まるのですが、人間の長い歴史においては、この五時代のイメージのごとく「昔はよかった」的な感覚のほうが普遍的。あまりに懐古趣味でも問題ですが、謙虚に過去に目を向けて学んだりすることも常に大切ですから、このような感覚にふれるのは今でも意味のあることでしょう。

また、そもそも人間には過去に「黄金時代」を想定し憧れる傾向もあるのかもしれません。現代でも、遥かな過去の時代にロマンを感じたり憧れたりする人は数多くいるのではないでしょうか。

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