クピドとプシューケ―結ばれる愛と魂

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愛情の擬人神、エロス(クピド、アモル)の話をしたところで、その有名な恋愛物語について。

美と愛欲の女神アフロディテ/ウェヌスにつき従い、その息子ともいわれる神エロスの、ローマでの呼び名が「クピド(英語でキューピッド)」、あるいは「アモル」。「アモル」はラテン語で「愛」の意で、フランス語のアムール amour、イタリア語のアモーレ amore などにつながっています。

クピド/アモルにまつわる有名なエピソードが、「クピドとプシューケ」。紀元2世紀の作家アプレイウス(アープレーイユス)の『黄金の驢馬』(4〜6巻)が伝える話は以下のようなものです。

ある国に3人の王女がいて、末の王女プシューケはその美しさで評判でした。プシューケが女神のごとく崇められていることに怒ったウェヌスは、息子クピドに、恋心を操る弓矢を用いてプシューケが卑しい男に恋することになるよう命じたのですが…

ところがクピドは、当のプシューケに恋してしまったのです。

プシューケがあまりに美しいため、ふさわしい求婚者が現れなかったので、どうすべきかと両親が神託を求めたところ、「プシューケを山の頂上に運び、そこに現れるものに彼女は捧げられるべし」とのお告げを得ました。神託に従うことになったプシューケですが、その場に行くと風によって運ばれ、美しい宮殿へ着きます。

そこで、姿の見えない、声だけで語りかけてくる夫と結ばれるのです。

夫は夜になるとプシューケのもとにやってくるのですが、暗闇で姿を見ることができません。しかし声だけでもプシューケを愛する気持ちを感じ、彼女はこの謎の夫と、あらゆるものが用意された宮殿で暮らしたのでした。

しばらくして、家族が恋しくなったプシューケは夫に懇願し、姉たちを宮殿に連れてきてもらいます。不思議な状況ではありますが不自由のないプシューケの暮らしを妬んだ姉たちは、こう妹をそそのかしました。「姿を見せない夫は実は恐ろしい怪物で、そのうちお前を食ってしまうつもりだから、夫が寝ている間に姿を確認するように」と。

これを信じてしまったプシューケは、夫が眠っているときにこっそり明かりを持って近づき、その正体を知ることに。

夫は、美しい姿の愛の神クピドだったのです。ウェヌスの命に背いてプシューケに恋をしてしまったクピドは、こうして密かにプシューケを妻としていたのでした。

このときプシューケは誤って灯の油をクピドの肩に落としてしまいます。それで目を覚ましたクピドは、正体を知られたことに驚き、去って行きました。しかも火傷のために、命も危ないような状態に陥り、身を隠します。

プシューケは愛するクピドを探して奔走するのですが、ことの次第を知ったウェヌスが怒りを増してプシューケを捕らえ、彼女に難題を課しました。

しかしプシューケは不思議な助けを得て、それらをやり遂げていきます。たとえば、様々な種類のものが混ざっている雑穀の山を、一日で種類ごとに選別することを命じられたときには、蟻たちがプシューケに同情して手助けしてくれたのでした。

一方、ウェヌスの監視下にあったクピドは、傷が癒えると最高神ユピテル(ゼウス)に助けを願い出ていました。ユピテルは2人を結婚させることにして、プシューケに神の食物アンブロシアを与え、彼女を神々の仲間としました。ここに至ってウェヌスも怒りをおさめ、めでたくクピドとプシューケは結ばれたのです。

プシューケはギリシア語で「精神、魂」を意味します(また「蝶」も意味)。心理学のことを英語でサイコロジー psychology といいますが、これはプシューケ psyche、英語発音「サイキ」に由来。

愛の神クピド/アモルと、プシューケとのエピソードは、愛と精神・魂が結ばれ一体となる象徴的な物語といえるでしょう。

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