アポロン/アポロ 文化・予言・失恋の青年神(3)

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実らない恋

アポロンには多くの恋物語が伝えられていますが、アポロンは美青年なのに恋が実らず、理性的なはずなのに激情を見せるのが神話の面白いところかもしれません。

たとえば、アポロンはトロイアの美しい王女カサンドラ(カッサンドラ)に恋をしました。そして彼女に言い寄って予言の力を授けてあげるのですが、カサンドラはアポロンを受けいれず、怒ったアポロンは彼女の予言が誰にも信じられないように呪いをかけてしまいます。

そのため彼女は戦時にトロイアの陥落を警告するが信じてもらえず、ギリシア軍によってトロイアは攻め滅ぼされてしまったのです。このエピソードを意識して、カサンドラは悪い出来事の予言(者)、間違ってはいないのに信じてもらえない人やことの喩えになっています。

続いて、ダフネへの実らぬ恋のエピソード(『変身物語』1.452以下)があります。

ダフネとアポロンを描いた版画(Italy, c.1530-60. Engraved by Master of the Die. Designed by Baldassare Tommaso Peruzzi. Open Access Artworks, The Metropolitan Museum of Art, New York.)

弓矢の名手であったアポロンは、愛の神エロスが持っている小さな弓矢を「何の役にも立たなそうだ」と冷やかしました。これに怒ったエロスは、自分の弓矢の力でアポロンをこらしめてやろうと考えます。

弓矢で恋愛感情を操るエロスは、恋心をかき立てる黄金の矢をアポロンに、そして恋心を失わせる鉛の矢をニンフのダフネに射ました。

アポロンはダフネに恋して追いかけるのですが、ダフネは必死に逃げて助けを求めます。その願いを聞き入れたゼウスが、ダフネを月桂樹に変えてしまったのでした(ダフネが「月桂樹」の意)。

悲しんだアポロンは、月桂樹の葉で編んだ月桂冠を常にかぶるようになったといいます。

アポロンの象徴でもある月桂冠は、古代ギリシアにおいて競技の勝者に与えられました(競技会によってはオリーブの葉で編んだ冠)。現代でもマラソンの優勝者などに月桂冠が与えられるのは、この慣習に由来。

また美青年ヒュアキントスとアポロンとの恋物語も伝えられています(『変身物語』10.162以下)。ギリシアでは男性同士の同性愛に悪いイメージはなく、特に教育的意味をもった少年愛は良いことと考えられていたのを反映しているのでしょう。アポロンとヒュアキントスは仲睦まじく過ごしていましたが、円盤の投げ比べをしているときにアポロンの投げた円盤がヒュアキントスに当たって亡くなってしまいます。そしてアポロンの嘆きによって、ヒュアキントス Hyacinthos の血から花の「ヒヤシンス hyacinth」が生じたとされます。

理性的な領域を司りながら、実らない恋愛にときに怒り、ときに苦悩する人間的な面も有する神が、アポロンなのです。

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