ローマの起源(3) アエネアス、イタリアへ

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『アエネイス』あらすじの続き

旅を続けたアエネアス一行は、目的地のイタリアにたどり着きます。

クマエ(現在のナポリ北西)において女予言者シビュラ(予言にまつわる事物の名称にされる、あのシビュラです)に指示を受けたアエネアスは、未来を知るため冥界に下りました。

※冥界は、地下に広がっているとイメージされた、死者の魂が行く世界。生者が簡単に行くことはできないのですが、各地にある洞窟などは、冥界につながっているとも考えられました。

冥界においてアエネアスは多くの亡霊に出会いながら、父アンキセスの霊によって、一族の栄えある運命とローマの将来についての予言を授かると、アエネアスは地上へ戻り、新天地を求めて旅を続けていきます。

そして一行は、王ラティヌスが治める土地、ラティウムに到達。ラティウムとはすなわち「ラテン人の土地」の意で、都市ローマが創建されることになる地域名です。現在では「ラツィオ州」という名称。

ラティウムおよび周辺にはラテン人以外にも諸部族がいました。そのうちの一部族ルトゥリ人の王トゥルヌスが、ラティヌスの一人娘ラウィニアに求婚していたのですが、彼女には「ラティウムの外の異国から来た者と結婚せよ」という神託が下されます。そこでラティヌスは、娘の結婚相手にふさわしいと、トロイアからやってきた高貴なアエネアスを歓迎しますが……

アエネアスのことを快く思わない女神ユノ(ヘラ)の策略で、ラティヌスの妃はアエネアスを迎え入れることに反対し、王女の婚約者であるトゥルヌスは軍を起こします。

トゥルヌス側には、近隣のウォルスキ人の女戦士カミラや、エトルリア人(実際にローマ以前に繁栄し、ローマに影響を与えた民族)から追い出されたメゼンティウスといった者たちが加わりました。

一方アエネアスのほうでも、メゼンティウスの暴政を憎んだエトルリア人や、ギリシアのアルカディアから移住してパランテウムという町を建設していたエウアンデル(ギリシア語でエウアンドロス)などを味方にします。

トゥルヌス軍との攻防が繰り広げられるなか、エウアンデルの息子パラスが戦死するなど、アエネアス軍は劣勢に追い込まれていきます。しかしアエネアスがメゼンティウスとその息子を討ち倒して盛り返していき、アエネアスは一騎打ちでトゥルヌスをついに討ち取るのでした。

なお叙事詩『アエネイス』は未完で、一騎打ちの場面において終わっているのですが、他の著述家によると、アエネアスはラウィニアと結婚して新しい市を創建し、妻の名からラウィニウム(ローマの南にあった港町)と名づけたと伝えられます。

ローマの基礎を歌う物語

『アエネイス』ではローマ創建について直接は語られませんが、詩の中で何度も建設が予言されるアルバ・ロンガ(後述するようにアエネアスの息子が創建)がローマの祖ロムルスの出身地で、そこがローマの礎と見なされていて、ほかにもローマ近郊の町の由来が言及されていることからも、『アエネイス』はローマの神話的基礎を歌う物語なのです。

叙事詩『アエネイス』、同時代における意味

またこの叙事詩は、それが作られた時代において特に重要な意味をもっていました。ローマの内乱を終結させ帝位についた初代皇帝アウグストゥスと、ローマの未来を讃える叙事詩でもあったのです。

アウグストゥスの属したユリウス氏族はアエネアスの子孫と称していたので、アエネアスは皇帝を連想させました。そして叙事詩中ではローマの栄えある運命が繰り返し強調され、神話の血統に連なる偉大な皇帝の統治と、帝国の繁栄が示唆されているのです。叙事詩の完成前にウェルギリウスは世を去ったのですが、アウグストゥスの指示によって『アエネイス』は公刊されたのでした。→ローマ創建までさらに続く

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