神話のつながり、広がり

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 「ギリシア・ローマ神話」は、古代ギリシア文明の時代(前8〜前4世紀)に記録されたものが中心となっている、神々と太古の英雄についての物語と関連イメージ群。その後も新たな物語・解釈が加えられながら語り継がれ、古代ローマを経て、西洋文化の重要な要素へと昇華しました。さらに西洋にとどまらず、現代世界において様々な形でギリシア・ローマ神話は生き続けています。
 まず、堅苦しい話は抜きにして、「神話とは単なる古代の遺物ではなく、こんなところに生き続けている」例をいくつか紹介してみます。

NIKE と VICTORIA

サモトラケのニケ像(ルーブル美術館蔵) Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons.

 古代ギリシア人は「勝利」を、ニケという翼をもった女神の姿で擬人化していました。それが、スポーツ用品メーカー「ナイキNIKE」の由来。ナイキのマーク(=スウッシュ)はニケの翼をイメージしています。また、オリンピックは古代ギリシアで開催されていたオリュンピア競技会に由来するのですが、その結びつきから、夏季オリンピックのメダルには決まってニケがデザインされています(古代に直接由来するのはあくまで夏季オリンピックのほうと考えられ、冬季のメダルにはその伝統はない)。ニケを描いた古代美術作品では、エーゲ海北部サモトラケ島で発掘され、ルーブル美術館におさめられた彫刻『サモトラケのニケ』が有名。歴史や美術の教科書でよく紹介されているので、ご覧になったことがある人は多いのでは。

 また、フランス南岸のリゾート地ニースは、古代ギリシア人がやってきて建設した植民市から発展したのですが、もとの名はニカイア(ニケーア)、すなわち「ニケの町」。トルコ北西部にも同じ名称由来の町ニケーアがあり、キリスト教の公会議の開催地として世界史の教科書に出てくるのはこちら(現在はイズニク)。

 ところで「ニケ」とは、もともと勝利の意の名詞ですが、「ニコラオス」という古代の人名は「人々の勝利」という意味で、そこからニコラス、ニコル、ニコラといった人名が派生しました。ちなみにサンタクロースは、古代ローマ時代にミュラ(現在のトルコ南沿岸部にあった町)に実在したというキリスト教の慈悲深い聖人「聖ニコラオス」(紀元4世紀中頃に殉教)、つまり「セイント・ニコラス」がモデルになっています。

 「ニケ」はローマでは「ウィクトリア Victoria」(ローマのラテン語を表記する際、ここでは v を「ウ」とします)。ギリシアと同様に勝利の女神としての擬人化。英語の「ヴィクトリー」の由来である Victoria という言葉は、イギリス女王の名として有名な女性名や地名としても受け継がれています。

 ナイキの話はよく紹介されるようになったベタな例ですが、ポイントは、このようにいろいろつながり、広がりがあること。古代神話のイメージは世の中の様々な事物につながっているのです。

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