オカルトにおけるレムリアとアトランティス(3)

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さて、ブラヴァツキー夫人がもともと東洋思想に強く関心を抱いていたこともあり、インドでも活動拠点を築いた後、彼女は支援者が各地にいたヨーロッパに帰還しました。1887年からはロンドンに定住し、深遠な教義を語る大著『シークレット・ドクトリン』を刊行(1888)。その内容の中心は、夫人が実在を主張する神秘の書で、失われたセンザール語によって書かれ太古の叡智を伝える『ジャーンの書』に基づくとされます。ただし彼女の教義は、多くの宗教書やオカルト文献を参照してまとめあげられていることが従来指摘されてきました。ブラヴァツキーも書中で名前を挙げているように、ドネリーの書が刊行されて話題となっていた1880年代のことなので(→ドネリーとアトランティス論についての一連の記事参照→こちらから)、先述のジャコリオ(前記事)に加えてドネリーそして当時の失われた大陸をめぐる議論の影響も受けたのでしょう。ともあれ、『シークレット・ドクトリン』において失われた大陸がかなり重要な要素として教義に取り込まれたことにより、その後のオカルト信奉者たちにも継承されていくことになるのです。

ブラヴァツキー夫人によると、何百万年にも渡る世界の成り立ちと行く末は、七つの時代に分かれていて、各時代には固有の「根源人種」(Root Race)が現れます。

第一の根源人種は霊的存在で、現実世界の具体的場所ではない「不滅の聖地」にいました。

第二の人種は、北極から広がる、ヒュペルボレオス(先述の、古来北方に住むと想像された人々の名)の大陸に定住したとされます。この人種は、まだ人間の見た目とは違う異形の姿をしていました。

次にインド洋から太平洋にかけて浮上したのがレムリア大陸で、第三の人種レムリア人が誕生します。当初、彼らは卵生で両性具有でしたが、次第に性が分離し、半獣半人的・類人猿的段階を経つつ、少しずつ進化して現代人に似た姿になっていったと語られています。しかしレムリアは大変動に襲われて海に沈んでしまいます。

次に浮上したのがアトランティスであり、進化し優れた第四人種のアトランティス人がそこに暮らしといいます。アトランティスも大災害に見舞われ、プラトンが伝えるように最終的に姿を消すのですが、各地にアトランティス人が渡ったことで世界の諸文明の萌芽がもたらされました。そして、次に進化し現れた第五人種、すなわちその時点で最も進化しているとされたのがアーリア人です。

白人の祖先として想定されるようになっていたのがアーリア人。ブラヴァツキーの根源人種論ではアーリア人を頂点とした理解にいたっており、ナチスの人種論と偽史(いずれ記事で取り上げる予定)にもつながっていくものとしても、オカルト解釈は看過できません。

なお、第六と第七の人種はまだ現れていません。しかしそれら後継人種の居住地となる新大陸がいずれ浮上するとされています。

ところで、ブラヴァツキー夫人の主張には「霊的進化論」とでも形容すべき性質が見て取れますが、ダーウィンの進化論提唱(『種の起源』刊行)が1859年のことで、当時の進化論登場と人類起源理解への進化論の波及とが背景にあるのでしょう。人間は最初から人間として誕生したという聖書の記述のような理解とは全く異なり、人間ではない存在から変化を経て人間が誕生してきたのだ、と考える点で、両者には通じるところがあるわけです。関連して補っておくと、「進化」には定方向へと進むような前提はなく、あくまで生物の環境への適応についての見方で、本来は「変化」にずっと近いニュアンスであるはずなのですが、たとえば文明の発展の程度や知性の優劣といった観点からの「進歩」と安易に混同されます。これは、進化論によってもたらされてしまった大いなる誤解で、注意が必要でしょう。→(4)に続く

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