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「失われた大陸」イメージの、日本における受容・浸透について調査する一環で購入した書の記録。

著書は、渡辺豊和。1938年秋田県生まれ、古代都市の象徴性に関心を抱いてきた建築家で、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)教授でした。ちなみに管理人も秋田県出身で、一時期その京都造形芸術大学の歴史遺産学科で授業を受け持っていたことがあるので、勝手ながら御縁を感じるところも。

その渡辺の「アトランティス本」の一つが、『発光するアトランティス―失われた文明の呼び声』(人文書院、1991年)。この書で渡辺は、プラトンが伝えるアトランティスの平野や都市についての「図形」的描写と、仏様の世界を描いた仏画の「曼荼羅」や古代エジプトのピラミッドとの共通性を見出しつつ、アトランティスとはムー大陸のことだとしてその存在場所をアジアへと移し、インドネシアのスラウェシ島をアトランティス=ムーと見なしています。

大災害を生き抜いたアトランティス人たちは、中国、インダス、メソポタミア、エジプトのいわゆる古代四大文明の形成に影響を与え、日本にも到達して縄文文化にその跡を残し、さらにアメリカ大陸へも渡って行ったのだと、渡辺は諸文明の成り立ちを語りました。

文明起源と失われた大陸とを結びつける、古くからよくあったような論点もそこに見えつつ、渡辺は、偽書だと証明されている『東日流外三郡史』(※) 、すなわち大津波で姿を消したという東北地方の幻の王朝について伝えている(ムー大陸への言及もある)日本の偽史文書まで自説に取り込んでいるのです。

※ここでは詳しくふみこまないので、参考として以下のみ挙げます。斉藤光政『戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」』(集英社文庫、2019年)。

結論はともかく、その想像の展開は独特。ちなみに失われた大陸を、インドネシア周辺の海面上昇で沈んだ陸地と見る説、いわゆる「スンダランド説」は別に唱えられてきました(これについてはいずれ別記事で)。

近年では、神谷充彦(※)監修『超古代文明―衝撃の新説』(宝島社、2016年)が、渡辺豊和の論を引用しながらアトランティス=インドネシア(スンダランド)説を紹介していました 。さらにその神谷監修書では、これも渡辺と同様に、ムーとはアトランティスのことで、かつ世界文明の発祥地であったとも主張。これはかねて「失われた大陸」論に見られる典型的な想像。本ブログでもそういった見方を重ねて取り上げていくことになるでしょう(それが正しいというのではなく、「失われた大陸」なる「神話」が継承されていく例・背景として)。

※神谷は類書を複数監修。スンダランド説は神谷監修の漫画(『「超古代文明」の真実』宝島社、2016年)でも紹介されていました。これらの書の刊行時、神谷の所属は、「山口敏太郎タートルカンパニー」。山口敏太郎は、謎と不思議をテーマとしたノンフィクション作品を募集した1996年の「ムー・ミステリー・コンテスト」で優秀賞を得て作家となった、オカルト・超常現象研究家。「失われた大陸」への関心の系譜をたどっていると、こうしたオカルト関連や雑誌『ムー』関係の「要人」によく出会います。

さて、肝心の渡辺のアトランティス本はもう一冊。「魔術のごとき超古代科学」を探求する『失われたアトランティスの魔術―ピラミッドに隠された超常現象の秘密』(学研プラス、2012年)もあります。

京都造形芸術大の教授まで務められつつ、超古代に関心を抱いた著者。先述のように縁がなきにしもあらずなので、直接お話をお聞きしてみたいとも思うのでした。

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