「失われた大陸」

最終更新日

 語り継がれる人類のロマンのなかで、人々を最も魅了する魔力のあるエピソードはおそらく、古代に文明を発展させていたが大災害によって海の深淵へと沈んでしまった陸地の話だろう。(Lewis Spence, The Problem of Lemuria: The Sunken Continent of the Pacific, London: Rider, 1932, p.17.)

 かつてこう述べたルイス・スペンスは、太古に実在したとされる「失われた大陸」について20世紀前半に複数の著作を残した研究者です。西洋のみならず世界中で、彼のように無数の者たちが「深淵へと沈んだ陸地」に取り憑かれ、その存在を追い求め、様々な想像をめぐらせてきました。アトランティスやレムリア、ムー大陸、といった名称を聞いたことがある人も多いでしょう。

 それぞれについての基礎的な情報は、トップページからもご覧いただけるようにしていく予定ですが、いずれも一万年以上前の大昔に大災害によって海に没したとされる陸地のことで、そこでは高度な文明が成立していたと論じる人もいます。

 そもそも古代ギリシアの哲学者プラトンが伝えたのがアトランティスの物語で(ギリシア神話の海神ポセイドンも登場します)、その他の「失われた大陸」の言い伝えはアトランティスに直接・間接に影響を受けています。特定の個人が情報源であったり近代になってから情報が出て来たりしているなどの点で、これらの話はギリシア神話とは異なるといえるのですが(ギリシア神話は、誰が最初に言い出したのかわからず、伝統となって当時は本当のことだと前提されていた場合が多い)、影響力のある物語・イメージとして通じるところが認められ、後世にさまざまなかたちで受け継がれているので、本サイトでは「生き続ける神話」の一環として注目していきたいのです(本サイトで扱う「神話」についての投稿も参照)。

 アトランティスやムー大陸は、漫画やアニメ、ゲーム、映画などのポップカルチャーをはじめ、あらゆるメディアを介して受け継がれています。神話といえば、20世紀に米国の作家たちが中心になって展開されるようになった物語群、「クトゥルフ神話」の舞台設定に、「失われた大陸」もからんでいます。神話が神話を生む、ということで興味深いですね。こうした諸例についても扱っていきます。

 そして、後世への継承といったときには、「そもそも失われた大陸は実在したのか、そこに失われた超古代の文明は成立したのか」という問いについての無数の解釈も、看過できないでしょう。一般的にはもっとも興味を抱かれるかもしれない、「実在したのか」という問題についても論じていきたいと思います。

シェアする