アトランティス=ミノア文明説(2)

最終更新日

ミノア文明説の続きです。ギリシア本土の南方に位置するクレタ島で栄え、場合によってはエーゲ海の島々も含めて捉えられる、ミノア文明こそアトランティス伝説の由来とする解釈です。

現在のクレタ島。Photo by Tobias Reich on Unsplash.

クレタ島は東西に長く伸びた島で、面積は約8,300平方キロメートル、地中海で5番目に大きい島です。山が多いですが、島の南側には平野が広がっています。このクレタ島で、前2000~前1400年頃、ミノア文明が繁栄しました。1900年に、英国の考古学者エヴァンズがクノッソスにおいて、まるで迷宮のような巨大な宮殿を発掘し、存在を明らかにした文明です(この「迷宮」が、ミノタウロスの物語に登場する迷宮ラビュリントスのイメージのもとなのではないかと、よく指摘されます)。その後、島の各地でも、それより規模は小さいが宮殿が発掘されています。「ミノア」という名称は、クレタの神話上の王ミノスから取られました。

クノッソス宮殿の遺構。Photo by Egor Myznik on Unsplash.

ミノア文明がアトランティスを連想させるという指摘はそれ以前からあったのですが(交易で繁栄していたらしいことなどから)、20世紀後半になってミノア文明説が注目されたのは、「地震と大洪水に見舞われ、一昼夜にして海中に没した」という、アトランティスの最期を連想させる大災害が実際にあったことがわかってきたからです。すなわち、クレタ北方約120キロメートルに位置するカルデラの島、サントリーニ島が大噴火を起こし、クレタ島に地震や津波、降灰といった大災害をもたらしたことが、発掘調査等で判明してきたのでした。一方、サントリーニ島のアクロティリで町の遺跡が発掘され、島がいわばミノア文明圏に属していたことも確認されるようにもなりました。かねてよりミノア文明とアトランティスが関連する可能性を示唆し、これらの発掘において功績があったのが、ギリシアの考古学者スピリドン・マリナトスです(ちなみに彼は1974年にアクロティリの発掘現場で亡くなっており、倒壊に巻き込まれた事故、あるいは脳卒中によると伝えられています)。一方、クレタ島よりもサントリーニの方がアトランティスのモデルなのではないか、との主張もありました。こちらは、同じくギリシアの地震学者ガラノプロスが主張したことで知られます。

現在のサントリーニ島。Photo by Matthew Waring on Unsplash.

日本でもミノア文明説が紹介されるように1970年代、日本テレビが特に興味をもったのが、ガラノプロスの研究でした。70年代中頃、作家の小松左京の代表作の一つで、日本を未曽有の災害が襲う設定の小説『日本沈没』がベストセラーとなっていました(日本沈没についてはこちらも参照)。その災害のイメージのつながりもあって白羽の矢が立ったのでしょう、小松は日本テレビの取材に加わり、その模様は1977年7月17日に日曜スペシャル「小松左京 アトランティス大陸沈没の謎」として放映されています。後日の新聞(『読売新聞』1977年7月22日「放送塔」欄)には視聴者からの肯定的な投書が掲載されており(「久しぶりに見ごたえある現地取材」「こういった遺跡を前に私はアトランティスは間違いなく存在したと思った。再放送を。」)、番組はかなり好評だったのではないでしょうか。その後、取材をまとめた、小松左京監修『アトランティス大陸沈没の謎』(読売新聞社、1978年)が刊行されています。

以上の説について日本では、地質学者の金子史朗(『アトランティス大陸の謎』講談社現代新書、1973年)、地球物理学者で科学雑誌『Newton』初代編集長を務めた竹内均(『アトランティスの発見』ごま書房、1978年、同タイトルで徳間文庫、1991年、改訂版『古代文明アトランティスの謎を解く』ひらく、1997年)などが検討・紹介しました。竹内は先にふれた日本テレビの取材にも同行しています。

金子史朗はその後も関連する著書を刊行しています。管理人は、アトランティスにもともと興味を抱いていましたが、学生時代に書店で金子の『アトランティスが滅んだ日』を偶然手に取ったことで俄然関心を深めたことを思い出します(朝日文庫、1993年。『アトランティス―失われた楽園伝説』胡桃書房、1982年、および『アトランティス―失われた大陸の謎』講談社文庫、1984年、以上二書に加筆・修正したのが朝日文庫版) 。

なお、この説はおそらく最もよく紹介される解釈で、一つの解決のように言及されることもあるのですが、金子や竹内の時代から研究が進展したこともあって、ミノア文明説で万事が解決というわけではありません。この点も補っておきます。続…

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトは reCAPTCHA で保護されており、Google の プライバシーポリシー利用規約が適用されます。

コメントする