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近年のアトランティス(実在)説を一通り紹介してみる、という流れで、ミノア文明説に続いて「スペイン南部説」についてメモしておきます。

引き続き、参考文献として、米国の作家・ジャーナリスト、マーク・アダムズの著書『アトランティスへの旅―失われた大陸を求めて』(森夏樹訳、青土社、2015年、原著同年)を挙げておきます。

アトランティス解釈のなかで近年だと最も話題になったのが、スペイン南部説でしょう。ジブラルタル海峡の近くで大西洋に面したスペイン南部、都市カディス近郊に、ドニャーナ国立公園があります。そこに広がる広大な湿地帯の下に、古代都市=アトランティスが眠っているとする説です。現在の主唱者が、米国ハートフォード大学の歴史学教授、リチャード・フロイント。

実はアトランティス探求者たちの当地への関心は遡ります。1922年に、ドイツの考古学者アドルフ・シュルテンが、古代記録に登場するが姿を消した都市あるいは王国タルテッソス(旧約聖書に言及があるタルシシュではないかとされる)と、アトランティスとを同一視する説を発表し、1920年代に当地域の発掘を行っていたのです。スペイン説はこうした想定も受け継ぎつつ、ドニャーナ地方の衛星写真に建造物・同心円状の構造が見えるとしたドイツの物理学者ライナー・キューネの発表(2004)もまた刺激となって現れました。

スペイン南部への注目には、以下のようなプラトン情報との関連性もあります。プラトンが伝えるアトランティス島の周辺の地(プラトンの表現では、島に近いが島内ではない)として「ガデイラ」という名が記されていました。初代の王アトラスの弟ガデイロスの領土だったアトランティス島端に近い地がガデイラで、ガデイロスに由来するのだろうとプラトンはいいます。ガデイラ(ラテン語でガデス)とはスペイン南部アンダルシア地方のカディスのことなので、当地をアトランティスと結びつけることに説得力が出てくるわけです(ただし繰り返しますが、プラトンの記述ではガデイラ自体はアトランティス島の外にあるものと解せます)。

当地を調査した者たちによれば、周辺には断層があることや、地下に津波由来と推測される瓦礫層があったりすることから、かつて巨大な地震と津波に襲われた可能性があるとのこと。周辺では、ポルトガル・リスボンに被害をもたらした1755年の地震が有名で、アトランティス滅亡を彷彿とさせるようなリアリティも感じられる土地ではあります。

なお、スペイン南部説の現在の主唱者フロイントは、こうした「痕跡」の時代として実際には前2000年頃を想定しています。情報が伝わる過程で年代などは大きく変わってしまったのであり、アトランティスとは一万年以上も前の存在ではなく前二千年前頃までに当地で繁栄した都市あるいは国家ではないかというのです。確かにその方が「現実的」ではあり、こうして年代修正をはかった説もまた多いといえます。

スペイン南部説は、フロイントが出演した2011年のナショナル・ジオグラフィック・ドキュメンタリー『アトランティス発見』(Finding Atlantis)で話題になりました。その番組の製作総指揮が、ドキュメンタリー映画プロデューサーのシムカ(シンハ)・ヤコボビッチ。『アトランティスへの旅』の著者アダムズによると、ヤコボビッチは「センセーショナルなドキュメンタリー」、「たいていは、メインストリームの学者たちが軽蔑するような作品」を製作する人物とのことです。その手腕もあってのことでしょう、この番組およびスペイン南部説はかなり話題となったのですが、反響の割に具体的・説得的証拠は見つかっておらず、現状では、これまで語られてきた無数の諸説の一つにとどまっています。

アトランティスを題材にした漫画『イリヤッド』も、たしかスペイン説を重視していたような…(うろおぼえ)。諸説およびこうした関連情報も、確認のうえアップデートしていきたいと思います。

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