アトランティス物語が語られた理由(3)

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プラトンは、語り継がれるべき神話・伝説(の一環としてのアトランティス関連情報)を提示するにあたり、「神話・伝説としてのリアルさ」についてよく工夫しています(歴史的事実としてのリアルさではありません)。

個人が考えたことが明らかである唐突な創作であっては人々に受け入れられないですし、語り継がれません。誰が言い出したかわからず、世の中に継承され、基本的に本当で正しいと受けとめられながら、伝統と化していくことで神話は影響を及ぼすのです。そこでプラトンはアトランティスについて、当時の人が認識していても何が彼方にあるかはわからない大西洋を存在場所にしました。アトランティスも太古のアテネも、ギリシア人が漠然と考えていた神話の時代よりも昔に設定したうえで、ギリシアでは災害によって記録が失われた(アトランティスへの神罰のはずが、地震と洪水はアテネをも襲ったことになっていた)遥かな過去の話だが、古い歴史を保持したエジプトから、著名な人物ソロンを介して伝わったと、情報源を定めたのです。世の人々が基本的には本当のことで正しいと思っているギリシア神話との競合や矛盾が生じるのを避けつつ、古来の神話として(繰り返すが、現代の我々にとっての歴史的事実としてではありません)自然に提示するためです。

無から想像のみで描写されたわけではないだろうということも付言しておきたいと思います。アトランティスについての詳しい描写には、同時代に知り得た情報が参照されていたり意図的に投影されたりしているはず。たとえば、水路に囲まれた首都や、専制君主国家の体制などは、東方の大国(プラトンは東方の専制君主国家も否定的に捉えていた)を参考にしているのではないかと指摘されています。

さらにプラトンの時代にも、地震や津波といった自然の大災害が各地で実際に起こったことが記録されていますので、こうした出来事が「神罰によって滅んだ国」という着想につながったのかもしれません。

このように事実の断片を見て取ることは可能です。しかし、プラトンの意図をふまえつつ話を全体的に捉えるならば、創作として理解できるのです。ただ、「創作としても理解可能」という言い方を強調しておきたいと思います。極端な話、プラトンの意図に偶然よく合致する国が大昔に実在し、その情報をプラトンが知って利用したという可能性は全否定できないのですから。

プラトンが事実を参照したり、意識したりしながら語ったのがアトランティスです。実在証明は難しく、全体的には想像による創作だとして理解できるのですが、それは実在しなかったと完璧に論証することは、いわゆる「悪魔の証明」として実は不可能ともいえます。こうして、事実と想像とがせめぎ合うようなところから、「失われた大陸」は語り始められたのです。

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