ドネリーとアトランティス論(4)

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ドネリーの主張を代表例とする「アトランティス実在説」は、妥当性があるのでしょうか。今度はこうした観点の話に進みたいと思います。

まず、海底調査によって確認された海嶺は沈んだ陸地の存在を示すといえるのか、という最も具体的なところから。

20世紀になってドネリーの時代よりも調査が進み、この海嶺は「沈んだ大陸の痕跡ではなく、逆に隆起によってできた」と明らかになっています。1912年に提唱されたいわゆる大陸移動説から発展して、今は陸地・海底の変動について「プレートテクトニクス理論」が認められていますが、それによれば、巨大な「プレート」に乗っている大陸魂が互いに離れていくと、その裂け目において、マントル(地球の「核」の外側の層)の深部から新たに隆起が起こります。これによって大西洋中央海嶺ができあがったのです。

なお、地質学・生物学などの証拠から、長いタイム・スパンで見れば陸地が水没したり隆起したりすることは19世紀までに推測されていたし、今は陸地・海底の変動が具体的に理解されています。たとえばアルプス山脈で海の生物の化石が見つかるのは、かつて当地が海の底にあったがアフリカ大陸とヨーロッパ大陸とが衝突して隆起したから、なのです。しかし、アルプス山脈形成の始まりは1億年以上前に遡ります。このような変動は基本的にきわめて長い時間でのことであって、突如起こる大災害とは異なるのです。

ドネリーの時代にも事例が報告されていたように、火山活動などによって短期間に小さな陸地が出現したり消失したりすることもありますが、高度な文明が発展しうるようなある程度の広さの陸地が長年に渡って存在し、かつ大変動によって「一昼夜にして海中に没した」ような痕跡は、海底探査の進んだ現代でも、大西洋において(そして世界の海でも)確認されていないのです。

また、ドネリーあるいは彼に類する説を唱える者たちは、アゾレス諸島のほか、カナリア諸島(アフリカ大陸北西沖に位置する、スペイン領の島々)がアトランティスの痕跡であると主張します。先に名を挙げたボリ・ド・サン゠ヴァンサンもそのように考えていました。

カナリア諸島最大の島テネリフェのグイマーには、六段の階段状ピラミッド型遺構「グイマーのピラミッド」が存在します。その確かな建造年代はわからないのですが、もちろん、こうした遺跡だけで東西に影響を及ぼすような太古の文明の存在を示すことはできません。それに当地の先住民グアンチェ族の文化は、スペイン人がやってきたとき(14世紀)に石器時代の段階にありました。「年代のはっきりしないのは、常識を超えて古い遺構だからである。また、グアンチェ族の文化はアトランティスの時代から退化した」との主張・反論があるかもしれませんが、それは都合のいい勝手な解釈でしょう。アゾレス諸島やカナリア諸島はプラトンの描写と比べて小さ過ぎますし、その周辺で沈んだ陸塊や大きな島が存在したという証拠もなく、アトランティス実在と直結させることはできないのです。→実在説の問題点は続く…

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