神話を題材にした映像作品

本サイトでは神話を題材にした映像作品をこれから無数に紹介していくことになると思いますが（管理人が書き続ける限りは…）、先だって、以前調べてまとめたことがあった米国での諸例を掲載しておこうと思いました。

まず今回は実写作品。神話を題材にし、アメリカで人気を得たＴＶドラマシリーズに、『ヘラクレス Hercules: The Legendary Journeys』(1995～99年)、およびそれから派生したもので女戦士ジーナを主人公にした『ジーナ Xena: Warrior Princess』(1995～2001年)があります。ネットでの言及を見ると、今でもファンは多い様子。

他にもミニドラマシリーズやテレビ映画として、英雄たちが協力して宝物を探し求める「アルゴ船の冒険」や、トロイア戦争後に祖国へ帰還する英雄オデュッセウスの冒険(ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』)を題材にしたものなどが数多く製作されています。

映画では、特にホメロスの叙事詩『イリアス』を念頭にトロイア戦争を描いた『トロイ』(ウォルフガング・ペーターゼン監督、2004年)が有名でしょうか。同じくトロイア戦争を題材にしたものでは、英国のBBCと動画配信サービスのネットフリックスとの共同製作ドラマ『トロイ伝説：ある都市の陥落』(2018年)が配信されています（これらの作品には話題になったポイントとそれについての管理人なりの考えもあるので、別投稿で述べたいと思います）。

また往年の名作映画に、ペルセウスの物語をもとにし、特撮技術の巨匠レイ・ハリーハウゼンが製作に携わった『タイタンの戦い』(1981年)がありましたが、2010年に同タイトルでリメイクされ(ルイ・レテリエ監督)、その続編として『タイタンの逆襲』も新たに製作されました(ジョナサン・リーベスマン監督、2012年)。

さらに、怪物ミノタウロス退治で知られる英雄テセウスを主人公にした『インモータルズ―神々の戦い』(ターセム・シン監督、2011年)、ヘラクレスを主人公とした『ヘラクレス』(ブレット・ラトナー監督、2014年、原作はスティーブ・ムーアのコミック『ヘラクレス―トラキア戦争』)、『ザ・ヘラクレス』(レニー・ハーリン監督、2014年)もあります。

世界最大の物語産業といえるだろうハリウッドにおいて、こうしてギリシア神話が求められ続けているのです 。

正面からギリシア神話を描いたものではなくても、着想源としている映画作品としてたとえば、『聖なる鹿殺し』(ヨルゴス・ランティモス監督、2017年)があります。舞台は現代で、ある心臓外科医の贖罪が物語の軸なのですが、トロイア戦争出征に際してのエピソードを描いた古代ギリシアの悲劇『アウリスのイフィゲネイア(イピゲネイア)』が下敷きになっており、劇中でもその悲劇への言及がなされています。またホラー映画の『へレディタリー』(アリ・アスター監督、2018年)も、英雄ヘラクレスの最期を題材にしたギリシア悲劇『トラキスの女たち』をプロットの参考にしていました。

間接的なつながりではありますが、このようにギリシア神話なくして生まれなかったかもしれない作品が（今回ふれている映像作品以外の様々なジャンルにおいても）認められ、その影響があらためて感じられます。

なお、映画における古代神話・古代史の影響について論じた研究書を参考に挙げておきます。

Irene Berti and Marta G. Morcillo (eds.), Hellas on Screen: Cinematic Receptions of Ancient History, Literature and Myth, Stuttgart: Franz Steiner Verlag, 2008.

Martin. M. Winkler, Cinema and Classical Texts: Apollo’s New Light, Cambridge, U. K.: Cambridge University Press, 2009.

Joanna Paul, Film and the Classical Epic Tradition, Oxford: Oxford University Press, 2013.

Monica S. Cyrino and Meredith E. Safran (eds.), Classical Myth on Screen, New York: Palgrave Macmillan, 2015.