アーカイブとしての神話(3) 補足: 日本の場合…
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ところで、日本でもギリシア神話は受容・利用されているわけですが、日本特有のギリシア神話受容の事情についても、ここで補足的に付言しておきます。
本来は、日本神話こそが日本ではもっと浸透して、先述のような物語・イメージの「アーカイブ」として盛んに利用されてもいいはずでしょう。もちろん日本神話を題材にしたもの、関連する作品も少なからずありますが、管理人が講義を担当してきた日本の複数の大学において、当該関連分野を専攻する者以外の学生たちの知識を間近で見てきた経験からは、日本神話よりもギリシア神話の方になじみがある若者の方がずっと多いという実感があります。
こうした状況を理解するには、時間を少々遡るべきかと考えます。第二次世界大戦と敗戦を経て、日本を神の国と見なす皇国史観がタブー視されることになったのに伴い、日本固有の神話が公にあまり語られなくなりました。西洋の影響力は歴史的に甚大といえますので、神話を含む西洋文化全体が日本はじめ世界に浸透しているのも当然なのですが、日本では固有の神話が公にあまり語られなくなった「神話の空白」状態があったために、ギリシア神話がとりわけ入ってきやすくなった、という背景が見て取れるのではないかと管理人は思っているのです。
それに、神話が途絶えたからこそ日本の「物語欲求」は、漫画やアニメにいっそう向かったという面もあるのではないでしょうか。
ともあれ、ギリシア神話が日本のポップカルチャーにおいて受容され、海外にも波及した『聖闘士星矢』のような人気作品が生み出されてきたわけで、日本もギリシア神話の普及に一役買っています。そうしたなかで、日本神話の物語やイメージをこれまでに増してよく目にするようになったなら、それは文化状況の大きな変化を示唆するでしょう。
メディアで日本古来の文化が取り上げられる機会がかなり増えてきましたし、たとえばすでに2006年には『大神』という日本神話を題材としたカプコン製作のゲームがヒットしていたことなどに、兆候はとっくの昔から見られていたといえるかもしれないのですが。こうした日本の事情、状況をめぐっては、いつか別の機会により詳しく考えてみたいと思います。…「アーカイブとしての神話」は、いったん終わり。