魔女か悪女か、悲劇のヒロインか―王女メデイアの物語(1)

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『ガラスの仮面』で有名な美内すずえさんの中編漫画『魔女メディア』を最近たまたま拝読しました(初出1975年。白泉社文庫の『美内すずえ傑作選⑦ 魔女メディア』を購入。)それで思い出した、ギリシア神話のメデイアの物語についてまとめておきます。

「魔女」や「悪女」という言葉は、誰しも知っていますよね。「ファム・ファタール」という言葉も聞いたことがありますか。「運命の女」という意味のフランス語の表現ですが、「運命的な恋愛相手」を指す一方、「男を破滅させるような女」の意で用いられことが多いので、こちらの意味で聞いたことがあったのではないでしょうか。そういえば女性に対して、「小悪魔」とか「美魔女」なんて言葉も使われますよね。

これらは、古くから社会・文化活動において支配的だった男性側から見て、偏向して歪んだ女性像を映し出している言葉でもあります。だから逆に、「魔男」とか「悪男」などという表現は一般的じゃないでしょう。「運命の男(オム・ファタール)」という言葉もあるけれど、よく用いられるのは「ファム・ファタール」の方なのです。

さて、二千年以上前からそのような偏見があったかもしれないと感じさせつつ、特に魔女の代名詞になっているのが、ギリシア神話に登場するメデイア(メディア)という女性です。冒頭でふれた美内すずえの中編漫画『魔女メディア』は、直接ギリシア神話を扱っているわけではないのですが、そこでは魔女の象徴的な名として「メディア」が採用されているのです。そして今でも、ゲームやアニメなどにおける魔女キャラクターの名やイメージとして、彼女は再生し続けています。たとえば知ってますか、『シャドウバース』なんてゲーム。それに出てくるのが「秘蹟の魔女メディア」。ま、私はプレイしたことないんですけどね、シャドバ。

そもそもメデイアとは何者なんでしょう。一昔前の昼ドラのようなところがある一方、サイコホラーのような要素も有する、彼女の物語を紹介しましょう。

ギリシアから黒海東岸コルキスという国に宝物を求めてやってきたイアソンという英雄がいました(有名な「アルゴ船の冒険」の物語。いずれ別記事でまとめます)。ちなみにイアソンとは「癒やす者」の意。男性名として受け継がれていて、英語で「ジェイソン Jason」。普通の男性名なのですが、ホラー映画シリーズ『13日の金曜日』の殺人鬼の名としても有名ですよね。本来の意味とこちらのイメージにギャップがあります。ちなみにこれからお話しする物語でも、イアソンは人を全然癒してないです。

それはともかく、コルキス王国にやって来たイアソンに恋して、彼を手助けしたのが、コルキス王女で魔術を得意とするメデイアでした。神話の英雄たちは基本的に格好よく、もてるのです。神話に登場する女性たちも美しいのが前提。もちろんイアソンもまんざらではなかったでしょう。しかし、この恋愛がとんでもない展開へ。

冒険の目的であるコルキスの宝、「金の羊の毛皮(金羊毛)」を手に入れたイアソン一行は、自分も一緒に連れていってくれるように懇願するメデイアも伴い、出航します。宝ばかりか王女まで奪われることになったコルキス王アイエテスは船で追ってきましたが、このときメデイアは驚きの策略でイアソンを救いました。彼女を慕って共に出奔してきていた弟アプシュルトスを殺し、なんとその体をバラバラにして(!)海に投じたのです。古代ギリシアでは、遺体は(特に親族のものは)必ず回収し弔わねば神罰を招くという考えがありました。それで、バラバラにされた遺体を回収しようとコルキス側がモタモタしているに、メデイアとイアソンたちは逃げ切ったというわけ。メデイアは故郷も家族も完全に捨て、イアソンへの愛を選んだのです。

ギリシアに帰る途中に立ち寄ったスケリアという島において、当地の王女のはからい(おせっかい?)によりイアソンとメデイアは結婚します。自分のために弟の命まで奪うメデイアの愛情を、イアソンはどのように受けとめていたのでしょう。それは神話において詳しく語られないため、想像によるしかないのですが…。それからも冒険を経て、二人はギリシア本土に帰還します。

イアソンはイオルコスという国の王になるはずでしたが、異父兄弟のペリアスに王位を奪われていました(冒頭でふれたアルゴ船の冒険は、これが発端)。イアソンの妻となったメデイアはペリアスに対して、イアソンに代わり手の込んだ復讐を企てます。ペリアスは年老いて死ぬことを恐れていたので、メデイアはペリアスの娘たちに若返りの魔術を実演して見せました。それは、年老いた羊を切り刻み、薬草を投じた大釜で煮ると、若返った羊が現れるというもの。メデイアはこれをペリアスにもおこなうよう娘たちをそそのかします。娘たちはペリアスを切り刻んで(おいおい)、薬草の入った大釜で煮ました。しかしメデイアは偽の薬草を入れていたので、ペリアスはリスポーンすることはありませんでした。このため、イアソンとメデイアはペリアスの息子によって追放されることになったのです。メデイア、事態悪化させてるやん。→続く

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