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管理人の著書『アトランティス゠ムーの系譜学』において紹介できなかった「失われた大陸」継承作品作品として先に名前を挙げていた、里中満智子の漫画『海のオーロラ』を独立記事でもう少し詳しく紹介しておきたいと思います。

里中満智子さんといえば、管理人にとってはギリシア神話の漫画がすぐに思い浮かびますが(マンガ・ギリシア神話、中公文庫、全8巻)、いうまでもなく少女漫画の重鎮。そして本作『海のオーロラ』は、『週刊少女フレンド』(講談社)において1978年第1号から1980年第17号まで連載された作品です。管理人は中公文庫のKindle版を購入して拝読いたしました。

ムー大陸に生きていたルツとレイという男女が転生を繰り返していく(古代エジプト→邪馬台国→ナチス・ドイツ→未来!)恋愛・冒険物語です。

とにかくひたむきで一途な主要キャラたち、相思相愛の者たちがなかなか結ばれないもどかしさ(一部のキャラクターは前世を覚えていたりするので、運命を知らないキャラによけいにもどかしさを感じるという)、繰り返される試練、そして悲劇…と、もしかして今となっては、よくあったねそういう物語とか、なんだか価値観が旧いよ昭和だよと感じる向きもあるのかもしれません。しかしだからなのか、忘れていた何かを思い起こさせてくれるようでもあり、管理人はけっこうハマったのでした。里中満智子さんの作品をほとんどお読みであろう知人も、ロマンあるこの作品はお気に入りとのことでした。

さて、途中で少しずつ示唆されるのですが、ルツとレイは、太古の「ムー」に生き運命を共にすることを誓った二人。ムーという着想は、やはり連載時の時代にムー大陸情報が日本でかなり浸透していたことが背景でしょうね。

さらに、その後の二人の転生も示唆的です。まず古代エジプト。こちらも「失われた大陸」とよく関連づけられる、ロマンある舞台です。ちなみに、超古代文明論などで古代エジプトがよく着目されることについては、米国の著述家 Jason Colavitoによる批判的考察 The Legends of the Pyramids: Myths and Misconceptions about Ancient Egypt, Red Lightning Books, 2021 があります。また、古代エジプトで漫画というと細川智栄子あんど芙~みんの大作『王家の紋章』が有名ですね。長さがだいぶ違いますが、『海のオーロラ』エジプト編と比べてみるのもよいのでは。なお『海のオーロラ』ではエジプト編が全体の半分以上を占めています。

そして転生の舞台その2が、邪馬台国。こちらも、「どこにあったのか」という点で「失われた大陸」とよく類推されてきた歴史上の謎ですし。続くナチス・ドイツの時代も、ナチスが真剣にアトランティス探索をしていたというエピソードがあるのでした(『海のオーロラ』ではそんな逸話は出てきませんが)。終盤は未来が舞台に。SFも「失われた大陸」との親和性があります。以上のような関連については拙著『アトランティス゠ムーの系譜学』で詳しくふれていますので、ご参照いただけますと幸いです。

『海のオーロラ』、別に「失われた大陸」を正面から取り上げているわけではありませんが、そのイメージの広がりを示す典型的な例でもあるのです。「失われた大陸」が設定に取り込まれた少女漫画についてはこちらの記事をどうぞ。

ともあれ、小難しいこと抜きに本作はおもしろかったです。

そして、時を遡りつついろいろな物語を出会わせてくれる、「失われた大陸」が私にはあらためて魅力的なのです。

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