エロス/キューピッド 愛の擬人神

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古代ギリシアにおける愛の擬人神を「エロス」といいます。その言葉自体は現代においてもよく知られるものになっているわけですが…。本来は、愛と美の女神アフロディテが従えていた神で、体は小さく、有翼の美青年あるいは幼児の姿をしていると思い描かれていました。ローマではクピド(「欲望」が語源、英語でキューピッドCupid)またはアモル(「愛」の意)と呼ばれることに。

エロスは弓矢で人の恋愛感情を操ります。黄金の矢で射抜かれた人は恋心を抱き、鉛の矢で射抜かれると相手が嫌いになってしまうのです(一説にはエロスの矢が「や座」の由来)。

古代の人々は、人間の感情が外からの神々の影響によって生じるというイメージをもっていました。ルネサンス期には、恋愛が予想できないということを象徴するものとして、目隠しをしているエロス(そして弓をかまえてもいる)すなわち「盲目のクピド」が描かれ、たとえばボッティチェリの名画『プリマヴェーラ(春)』の上部にいるのが盲目のクピド。

ボッティチェリ『プリマヴェーラ(春)』(1482年頃、ウフィツィ美術館所蔵、Public Domain via Wikimedia Commons.)

エロスは、前700年頃のヘシオドス『神統記』では世界の始まりにおいて誕生したと語られていましたが、のちにアフロディテとアレスから誕生したと考えられるようになりました。

キューピー

現代ではエロス eros は「性愛」の意。一方、ラテン語名のクピドは英語のキューピッド、そして「キューピー」へと受け継がれています。キューピー Kewpie は、1909年に米国のイラストレーター、ローズ・オニールが発表したキャラクター。

うお座

ちなみに「うお座 Pisces」はリボンで結ばれた2匹の魚の姿でイメージされますが、その由来説明のギリシア神話版では(星座によっては、その由来についてメソポタミアやエジプトの神話が広まっていたりする)、アフロディテとエロスがエリダノス川(エリダヌス座)のそばで怪物テュフォン(こちらを参照)に遭遇して驚き、はぐれないように紐で互いを結び、魚になって逃げた姿だと伝えられています。

エロスの弟アンテロス

また、アンテロス Anteros というエロスの弟も想像されました。アンテロスとはすなわち「アンチ・エロス」、「エロスに報いる」の意。愛に報いないことを罰する神とされた一方で、愛された者がそれに報いることを司る神でもあり、エロスとアンテロスによって相思相愛に至るという発想が生じていったのです。

なお、エロスは恋愛に関わる事象の擬人神と同一視・混同されることがあり、たとえば恋心の擬人化、ヒメロス Himeros がそうです。アンテロスやヒメロスが、複数いるエロス(複数形エロテス)の個人名という説明・理解がなされることもあります。

キリスト教へ―プット、プッティ

エロス/クピドのイメージはキリスト教の天使イメージにも影響を与えたと考えらます。のちの美術において描かれる、有翼で幼児の姿をした天使をプット Putto(複数プッティ Putti)といい、その姿はエロス/クピドと酷似しています。ただし題材がギリシア・ローマ神話であれば弓矢を持っていて、キリスト教絵画であればラッパや竪琴を持って登場。

なお、有名な「クピド(アモル)とプシューケ」の物語については別項で述べたいと思います。

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