The Greek Myths That Shape the Way We Think

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現代にいたるまで様々な事物に受け継がれ影響を及ぼし続ける「神話(的諸要素)」を関心の中心としている本サイト・管理人にとって興味深い書が刊行されておりましたので、購入・拝読いたしました。

Richard Buxton, The Greek Myths That Shape the Way We Think, London: Thames & Hudson, 2022 です。

タイトルをお堅く訳すと『我々の思考様式を形づくっているギリシア神話たち』という感じでしょうか。内容としては『有名なギリシア8選、その内容と継承についての平易な解説』です。

8選といいましたように、取り上げられているのは以下の8つのテーマ。

1.プロメテウス:人類に火をもたらした逸話で知られる神(英雄)。人間の創造主とされることも。
2.メデイア(メディア):ギリシア悲劇で有名な「魔女」「悪女」的キャラクター。
3.ダイダロスとイカロス:翼を作って空を飛んだ話で有名な親子。
4.アマゾン族:伝説上の、女だけの戦闘的部族。
5.オイディプス:ギリシア悲劇『オイディプス王』で知られる、恐ろしい運命に翻弄された男。
6.パリスの審判:3柱の女神のうち、もっとも美しい女神は誰か?パリスという男が選んだのは…という、トロイア戦争の発端エピソード。
7.ヘラクレスの功業:ギリシア神話中もっとも有名な英雄ヘラクレスの諸エピソード。
8.オルフェウスとエウリュディケ:妻をよみがえらせと冥界に下った楽人オルフェウス。

著者リチャード・バクストンは、英国ブリストル大学の古典学教授。高名な先生であり、管理人が学部生であった1990年代からご著書を何冊か拝読してきました。邦訳されている著書に『ビジュアル版 ギリシア神話の世界』(東洋書林、2007年、高価な大型本)があります。

神話の内容解説については無数の書があるわけなので、肝はやはり継承についてでしょう。ギリシア神話の有名なキャラクター、物語、関連イメージなどが、後世にどのように受け継がれ、活用されているか、今でも身のまわりに見られる諸例も視野に入れて挙げられています。

とても読みやすい良書です。学部学生さんでも苦労せず読めるのではないかと。ただし、継承の経緯や諸例についてはけっこう簡潔かなと感じます。

手前みそではありますが、「神話が後世にどのように受け継がれ、活用されているか」は管理人が拙著『世界の見方が変わるギリシア・ローマ神話』(河出書房新社、2022年、2016年刊行の書の改題版)をはじめ注目してきた論点。海外でも神話継承に関する書が特に2010年代からバンバン出版され続けてもいます。それらに比べて、とても斬新なところがある書とまでは言いがたいのですが…

とはいえ今回紹介している書の場合、次元の違う意義も。権威ある先生がわかりやすく論じていて、入門として最適ですから、こういった観点・研究がいっそう広く知られるでしょうし、あの先生(※著者はギリシア神話研究の分野ではかなりの大御所先生)まで着目する動向になってきたのかと、研究活性化にあらためて刮目させられる等々。日本でも近々「権威ある先生方」がこういった話を本格的に論じるようになるだろうと思います。

なお「ケルト神話版」といってよいでしょう、アーサー王伝説などを取り上げた以下の書も刊行されています(シリーズ化しているのかな)。
Mark Williams, The Celtic Myths That Shape the Way We Think, London: Thames & Hudson, 2021.
このような観点・研究の流れがある昨今なのです。

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