神話の「再話」―裸の女性、君の名は。

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いま、わかりやすくギリシア(ギリシャ)神話を紹介するという、とある企画をいただいているのですが、編集側のご要望と、私が個性を出して書けそうな感じと、折り合いをつけていく過程で用意した習作を掲載してみます。いま、視点を変えて神話を再解釈しつつ語り直す「再話」のムーブメントがあり、注目していたところなので、そこも意識してやってみました。このままのかたちで本に載ることはなさそうですし、記録がてら載せておこうと。ペルセウスとアンドロメダのお話しです。

人類史上もっともベタな物語とは?

「勇ましく強い、白馬の王子さま的な男性が、可憐なお姫さまを救う話」なんてのが、そうかも。こうした話の元祖といえそうな逸話がギリシャ神話に語られています。今の時代、こんなありきたりな話はものたりない。ところがちょっと角度を変えてながめてみると、ツッコミどころも多くて、おもしろいのです。

お姫さま、裸で岩に縛りつけられる

「うち、わるうなかとに、なんでこうなっとーと(わたしは悪くないのに、なぜこんなことになっているのでしょうか)……」

 海辺の岩に、鎖で縛りつけられた裸の女性。彼女の名前はアンドロメダ。本当に、なんでこうなっちゃったのでしょう。これは、ギリシャの南方、アイティオピアという国での出来事です。アイティオピアは「日に焼けた人の地」という意味で、「エチオピア」の語源ですが、現在のエチオピアと直接は関係ない土地。なお、この地の方々の言葉は以降、理解できるように標準的な日本語に変換させていただきます。

 この国の王様はケフェウス、王妃はカシオペアといいました。カシオペア、鏡を見ては、ため息をついてばかり。何かお悩みでも?

「……わたし、なんて美しいのかしら」(そっちかい)

自分にうっとりするカシオペアはさらに、
「美しすぎるわ。海の神・ネレウスの娘たちより美しいわ」
と言ってしまいました。このように、神々を例にして自慢を口に出してしまうと、神々がそれを察知して怒り、たいてい、ややこしいことになります。今回も、ネレウスの娘たち、すなわちネレイデス(単数だとネレイス、ややこしいですね!)は、父親・ネレウスに泣きつきました。

「ムキー、アイティオピアの王妃がこんなこと言ってる! お父様、罰を与えてください!」
「なんと、許せん! 海の怪物よ、出動じゃ! 国としての連帯責任。 国中、荒らしまわれ!」

おかげで、アイティオピアは大騒動に。この怪物、クジラっぽいとか、ヘビっぽいとか、いろんな伝えがありますが、とにかく海中から現れる巨大な魔物です。漁場をあらしまわったり、出くわした人間を食ったりして、もうやりたい放題。

どうしたら神の怒りはおさまるのかと、神託が求められました。巫女が神さまと通信して、神の意向を確認したわけです。そして得られたお告げは、
「カシオペアの失言が悪い。というわけで、カシオペアの娘・アンドロメダを、海の怪物のいけにえにささげること。これで解決!」

伝えきいたアンドロメダ、
「ばってん、うち関係なかろ!!」(たしかに)

こういう事情で、海岸の大きな岩に鎖で拘束されたアンドロメダ。ブツブツ何か言ってます。
「鎖までつけて……「こいつ、逃げるんじゃないか」と思われてるよね? 鎖、固いし取れないわ(逃げようとしてた)。そんで、なんで裸にされんのよ。リンゴの皮、食べやすいように剥いときましたよ、みたいな? 怪物に気を使うな!」

実は、王と王妃が離れた岩陰から見ています。逃げ出したりせずに本当に怪物に食べられるか見届けるため……? そうこうしていると、海面が盛り上がってきました。例の怪物がやってくる気配!

そのときです。いったいどこからやってきたのか、アンドロメダのすぐ近くに、スタっと着地した青年が。
「あのー、君の名は?」
あぜんとして言葉の出ないアンドロメダ、心のなかではこう叫んでいました。
「あんたこそ誰!」

いま、緊急事態なんだけど

「あ、先に名乗っておきますね。わたしの名はペルセウス。すみません、驚かれたでしょう。この、神に授けられた羽付きサンダルのおかげで、空を飛ぶことができるのですが、空からあなたをお見かけして、その、あの、美しい方だな、なんて」

「い、いま、それどころでは……」

「申し遅れました! そもそも私は全能神・ゼウスの息子。監禁されていた母・ダナエのもとにゼウスが黄金の雨となって降り注ぎ、母が身ごもって生まれた子です。人間の父は、母と私を邪魔に思い、私たちを青銅の箱に閉じ込めて海に流しました……ひどいですよね。とある島に流れ着いて助かったのですが……」(その話、長い? 長そうだよね?)

「その島で、私の母を我がものにしようとするちょっと年増好きな男の策略により、私は、西の果てに住む蛇髪の女怪物・メデューサの首を取ってくることになりました。その目を見てしまうと、石にされてしまうという、あのメデューサです。わたしは磨いた青銅の盾にメデゥーサの姿を映し出し、目を直接は見ずにその首を切ったのです。どうです、頭いいでしょう?」(ウルセウス)

「わたしはそんな危険な冒険をやり遂げ、島へ帰らんとしていたところ、美しい姫のお姿を目にし、これはいかなる事情がおありなのかとお聞きするために、空より降りてきたしだいです!」(終わった?)

このへんで、両親も何事かと近づいてきつつ、親子三人で「あれ! あれ!」と怪物を指差してます。起こっていることの情報量が多すぎて、うまく言葉も出てこなかったアンドロメダですが、ついに叫びました。

「いまそれどころじゃないから! あの怪物に食べられそうになってるの!」
アンドロメダの指差す先に怪物の姿をみとめて、ペルセウスも緊急事態に乱入したことはなんとなくわかったようです。

「もし、もしですよ、僕があの怪物を退治したら、私とその……結婚してもらえませんか? あ、こちら、お父さんとお母さんですか。ご両親のお許しもないと」(英雄、空気など読まず)

親子三人、ここだけは呼吸が合いました。
「わかった! わかったからなんとかして!」

すごいのは英雄じゃなくて

妙に余裕のペルセウス、
「ご心配なく! こちらには、メデューサの首があるのですから。この魔力、知ってます? 人間はもちろん、怪物だって、その目を見たものを一瞬で石にしてしまうのですよ! あの怪物にもきっと効きますって。次に怪物の目が見えたら、これ出します。勝負は一瞬でつきますよ!」

ペルセウスは布袋の中から蛇髪のメデューサの首を取り出します。もちろん自分は正面から見ないようにして(ふだんは袋入り。危ないし、蛇も甘がみしてくるし)。そしてそれを、怪物に向けて掲げます! 飛びかかってくる怪物! それは一瞬で石になって……と思ったら、怪物は大きな口をバクバクしたままペルセウスとアンドロメダに飛びかかってきました!

「あぶな!」
すんでのところで身をかわす二人。怪物は岩を削って海へザッパーンと戻りますが、身をひるがえし、また勢いをつけ飛びかかってくるつもりです。親子三人、
「みんな食べられそうになってるでしょうが!」
と、ペルセウスをにらみつけます。そこでペルセウス、大事なことに気づきました。

「あ、メデューサ、目を閉じて寝てたみたい。蛇も、しなっとなってる。起きろ、目をあけろ」

ペチペチとメデューサのほっぺたをたたきますと
「目が開いたみたいです! 次はいけますよ!」
今度はうまくいきました。メデューサの首と目を合わせた怪物は、一瞬うごきが空中で止まると、ビキビキと石化して、海にドッバーン。
アンドロメダと両親は、思わず叫んでいました。
「すごい!(メデューサがな!)」

…… …… ……

どさくさまぎれの婚約でしたが、その後、本当に2人は結婚して、ペルセウスの祖国・アルゴスに向かい、先王が亡くなると国を継いだそうです。ずっと取っておくのは危険なメデューサの首は、英雄たちを助ける女神・アテネにささげられ、アテナはその魔力を自らの防具に封じました。この首こそ、実はもっとも大事なキャラのような……。ペルセウスはメデューサ・ヘッド見せただけ、トトロはネコバス呼んだだけ。「主人公」より注目したいキャラがいる物語こそ、おもしろいのです。

以上……

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