太陽神とファエトン(パエトン)
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太陽の馬車
太陽神ヘリオスは、ティタン神族のヒュペリオンとテイアとの息子。「太陽の馬車」で太陽の運行を司っていたといいます。ヘリオスは、オリュンポス12神のアポロンと同じ太陽神として同一視されることもあります。また太陽神は、ローマでは「ソル」とも呼ばれていました。
『変身物語』(二巻冒頭以下)によると、ヘリオスの子ファエトン(パエトン、ここではアポロンの子とされている)は、自分が太陽神であることを友人たちに証明しようと、父に頼みこんで太陽の馬車を操縦させてもらったのですが、制御をあやまって暴走し、大地を焼いてしまいます。そこでゼウスは暴走する太陽を止めるため、やむなく雷でファエトンを撃ち落としたそうな。
またこのとき、太陽が地上に近づいた暑さのために肌が黒くなって「黒人」が生まれたとされています。いろいろな事物の起源を説明するのが神話の役目でもあるのです。
ところで「太陽がいつものコースをはずれて落ちてきた」というのは、何かをイメージさせませんか。つまり、地球外からの、彗星や小惑星といった天体の接近、落下や衝突です(ちなみに、「彗星」は氷や塵によってできており、成分の放出から尾を引いているように見えることがある小天体、それとは成分が異なる小天体が「小惑星」、惑星の表面に落下した固体物質が「隕石」)。もしかするとそうした出来事の実体験がこの話のもとにあるのではないかと想像力が刺激されますね。
また、地球外に由来する隕石と古代人の関わりは意外なところにも。隕石には「隕鉄」という鉄が含まれていることがあって、人類最初期の鉄はこの隕鉄に由来するのではないかとの説も。実際、隕鉄を含む古代メソポタミアの鉄剣も発見されています。
受け継がれるヘリオスたち
ヘリオスは太陽の神という輝かしいイメージから、様々な名称に受け継がれています。それにhelio-は「太陽の」という意味で用いられますし、ローマでの太陽神の呼び名ソルも、形容詞 solar などにつながっているのです。
息子ファエトン(パエトン)は、「太陽の馬車」のイメージから馬車の型、さらに車の型の呼び名になりました。すなわち、自動車における「フェートン」とは、折りたたみ式の幌を備えたオープンカー。大型高級セダンも意味するようになり、2003年にフォルクスワーゲン社が高級モデルとして販売したのが「フォルクスワーゲン・フェートン」でした。
なお、ヘリオスの父ヒュペリオンは「上方を行く者」の意(古代ギリシア語でヒュペル hyper が「越えて、上方を」の意で、英語「ハイパー」の語源)。現在、世界で最も高い木はカリフォルニアのレッドウッド国立公園にあるセコイアだそうだが(116メートルほど)、その木には英語で「ハイペリオンHyperion」という名がつけられている。イギリスの詩人ジョン・キーツには未完の詩『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』があり、これらを意識してダン・シモンズが構想した、同タイトルのSF小説もあります。昔読んだなぁ。名作です。