パン/ファウヌス 自然の神から悪魔へ?(2)

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王様の耳はロバの耳

パンにまつわる有名な話が、「王様の耳はロバの耳」(『変身物語』11.146以下)。笛の名人だったパンは、音楽の神でもあるアポロンと演奏で競うことになりました。審査したのは山の神と、小アジアのフリュギア王ミダス。山の神は、竪琴を奏でたアポロンを勝者としますが、パンのほうが素晴らしかったと主張するミダス王にアポロンは激怒し、王の耳をロバの耳に変えてしまうのです。

※この、音楽競争→ロバの耳の流れの話は、サテュロス(またはシレノス)であるマルシュアスの話とされることも。こちらを参照

それからミダスは頭巾で耳を隠していましたが、髪を切るときに理髪師がこれを見てしまい、口外してはいけないと思ったものの、話したい思いが募りました。そこで理髪師は、穴を掘って、「王様の耳は、ロバの耳」とささやいてすっきりしていたのですが…。葦(あし)がその声を吸い取って、「王様の耳は、ロバの耳」と風に流したのだとか。

パンとニンフ

笛の名人とされたパンが用いたのが、いわゆるパンパイプ(パンフルート、シュリンクス)。葦の茎などを用いた管楽器で、パンパイプが発展してできたのがパイプオルガン。

パンパイプの由来はこう伝えられています。アルテミスの侍女でアルカディア地方に住む美しいニンフ、シュリンクスにパンは恋をしました。彼女は純潔の女神アルテミスを崇めていたので、パンの猛アタックから逃れようとするのですが、水辺でパンに捕まってしまう。そこでシュリンクスは水中のニンフに助けを求め、葦になってしまったというのです。パンは悲しんで、その葦を切り取り楽器にしたのがパンパイプ、別名シュリンクス。

カール・ニールセンの交響詩『パンとシュリンクス(シリンクス)』は、この物語をもとにしています。

「パニック」の由来

パンは人や家畜などを大声で驚かせ、恐慌状態に陥れると考えられました。そのイメージから生まれた言葉が「パニック panic」。

また道化師的なイメージも強く、「ピーターパン」のパンとは、この神に由来。

ユーモラスなイメージとしては、スペインの画家ピカソが、ファウヌス(パン)の顔を描いたものが何点か残っています。

スペインといえば、スペイン内戦時に空想の世界を冒険する少女が主人公の映画『パンズ・ラビリンス』(2006年、原題『ファウヌスの迷宮 El laberinto del fauno』)において、少女を不思議な世界にいざなう存在としてパンが登場しています。

角をもつ神

ところでパンと同じように角をもっている姿でイメージされたのが、エジプト由来で、ときにゼウスと同一視されたアモンという神(アモン Ammon あるいはアンモンはギリシア語での呼び名、エジプトではアメン)。

こちらは牡羊の角なのですが、その巻角に似ていることから、化石で見つかる古生物の「アンモナイト」という名称が生まれました。一説には、アモン神殿の近くで産出していた物質を「アモンの塩」と呼んだことから、「アンモニア」という名称ができたそうな。

実は、パンやアモンといった角をもった古来の神々が、キリスト教の悪魔イメージに影響を与えたと考えられてもいます。悪魔イメージには、角や蹄などがよく見られるますが、キリスト教が広まっていく過程で、パンのごとく印象的な姿の古代の神々が悪役にされ、悪魔イメージにつながったと推測されているわけです。

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