『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

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拡大し続ける現代の物語コンテンツ(=現代の「神話」)を代表する米国のマーベル映画(マーベル・シネマティック・ユニバース、MCU)の一作として、また「アトランティス」イメージ継承例として、本サイトと関わりの深い映画、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を鑑賞してきました。

基本情報は… マーベル・コミックを原作とするMCUの30作目、2022年11月11日に日米同時公開。存在を秘してきたアフリカのワカンダ王国の指導者・ヒーローであるブラックパンサーを主人公とした『ブラックパンサー』(2018年)の続編。監督は前作に引き続きライアン・クーグラー、出演はレティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴなど。ワカンダ王国と海底王国(後述する「タロカン」)との対立を軸に物語は展開。

本作が話題になっていた背景には、ブラックパンサー(ティ・チャラ)を演じてきたチャドウィック・ボーズマンさんが病気により2020年に亡くなったこと、しかし続編は代役を立てないと公表されたこと、それで「主人公がいなくなった」うえでどんな内容、展開になるのか、さまざまな推測がなされていたことが挙げられるでしょう(公開後なのでふれていいと思いますが、作中でもティ・チャラは亡くなったことになっており、ブラックパンサーの「継承」が描かれます)。

また、本サイトとの関連から界隈(どんな界隈だ)で話題になっていたのが、「原作ではアトランティスの王であるネイモア/サブマリナーという重要キャラが映画に初登場するが、アトランティスが『タロカン』なる国に変えられ描かれる」こと。

マーベル映画の批評は主眼ではないですし、設定変更の理由についての「言わずもがな推測」についてはこちらの投稿でふれましたので、今回は実際に鑑賞したうえで「アトランティス(と、ネイモア)はどうなったか」について少しメモしておきます。

タロカン(Talokan)は、メソアメリカ近海にも存在した超金属ヴィブラニウム(に生えた海草)によって水棲能力を獲得した先住民たちが、密かに海底に建国し、超文明を発展させてきた楽園的な国家(そういやヴィブラニウムってオリハルコンみたいだな…)。おそらくアトランティス設定かぶりを避けようということで、今回の変更の一因でもあろうDC映画『アクアマン』におけるアトランティス描写と比較してみるのも一興かと。どちらも美しく幻想的ですが、もちろん違いがありますので。

その違いというかタロカンのイメージのもっとも大きな特徴は、メソアメリカ古代文明の投影です。アステカやマヤからインスピレーションを得た諸々の装飾、衣装等を含んで描かれる、タロカンとネイモアのイメージは、これほど世にあふれたヒーロー映画のなかでもかなり独特ではないでしょうか。

ちなみにメソアメリカの古代文明・国家は、偽史的解釈においてアトランティスの痕跡・子孫などとされてもきたので、もともとの設定におけるアトランティスと縁が深いのです。

ネイモアも、マヤで信仰された「翼ある蛇の神ククルカン」にたとえられています。

翼といいますと、ネイモアは飛行能力をもっており両足首の少し上のあたりに翼が生えてます(これだけで飛ぶというには小さいので、この小さな翼は補助的な役割なのかな)。これは原作通り。なんだかギリシア神話のヘルメスっぽい。

拡大し続けるMCUには賛否あるでしょう。関連作を見て覚えてないとわからない部分もあり気軽に楽しみづらいのもたしか。わざわざうがって見るのもあれなんですけど、単体としてなら本作は米国のヒーロー映画が描く「アフリカ」と、「メソアメリカ古代文明」という観点で鑑賞するのもありかなと感じます。リアルと想像、願望(マーケティング的にも世界の「多様性」を取り込んでいこうという)が渦巻くおもしろさが、特に本作にはあるのです。

ところで、アトランティスからタロカンへの変更の余波?を一つ。タロカンは数百年前に(中米から逃れた人々によって)建国されたということになります。そして以下は森瀬繚さんにご教示をいただいたのですが、本来の「マーベル世界」では、アトランティス(そしてレムリア)が海に没した大変動は Great Cataclysm といって、重要な「分水嶺」になっており、大昔のことを言う際に before the Great Cataclysm といった表現がよく用いられてきたのだそうです。これがなくなる、意味をなさなくなると、コミックに詳しい方こそ、そこ変えちゃうの、と感じるかもしれないですね。

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