ムーサ、ミューズ――学芸の女神たち

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芸術のインスピレーション

ムーサ(複数形ムーサイ、英語でミューズ)は、学芸を司る女神たち。ティタン神族で記憶の女神ムネモシュネとゼウスとの娘で、神託で有名なデルフォイがふもとにあるパルナッソス山に住むとされました(そこで、芸術の神でもあるアポロンと共にいるとも考えられました)。

詩人など芸術に関わる者たちは、ムーサに与えられるインスピレーション(霊感)によって詩を歌ったり、見事な芸術作品を生み出したりできるのだと考えられていました。そのため神話を歌う詩の冒頭では、歌ってくださいムーサよ、という呼びかけがあるのです。

ギュスターヴ・モロー『ヘシオドスとムーサ』(1891年、オルセー美術館所蔵。Public Domain via Wikimedia Commons)。 このように、芸術の才に恵まれた者は、その姿は見えずともムーサに愛されているというイメージがあったわけです。

技能は神のおかげと外因に帰す発想は、ひらめいた考えを「神の啓示」として捉えることにもつながるでしょう。神のお告げ、神託といったものは、自身の考えを表明・説明する方法の文化的バリエーションの一つということなのかもしれませんね。

詩人ヘシオドスによれば、ムーサは九柱の女神たち。当初はそれぞれの女神に特定の領域の割り当てはなかったのですが、ローマ時代に各ムーサが司る学芸の分野が定められていきました。それぞれの名前と分野は以下の通り。( )内は名前の意味。

クレイオ(讃える女)……歴史

エウテルペ(喜ぶ女)……抒情詩

タレイア(華やかな女)……喜劇

メルポメネ(歌う女)……悲劇

テルプシコラ(踊りを楽しむ女)……合唱抒情詩と踊り

エラト(愛される女)……恋愛詩

ポリュヒュムニア(多くの讃歌の女)……讃歌

ウラニア(天の女)……天文

カリオペ(美しい声の女)……叙事詩

ムーサに関係する言葉

ムーサたちが司った芸術を古代ギリシア語で「ムーシケー」といい、これが「ミュージック music」の語源。一方、美術館や博物館を意味する「ミュージアム museum」は、エジプトにアレクサンドロス大王が建設した町アレクサンドリアに設立されたことでも知られる学問研究所「ムセイオン」(「ムーサ神殿」の意)から。

一説によると、「モザイク mosaic」の語源もムーサ。ムーサを祀った場所にほどこされた装飾から、モザイクという言葉ができたという説があります。また、ムーサたちが住んでいたというパルナッソス山は、フランス語で「モンパルナス」。パリのモンパルナス地区は、特に1920年代に世界から芸術家が集った町として知られています。

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