カリストとアルカス―おおぐま座、こぐま座の物語

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アルテミスについてのイメージはこちらで解説しておりますが、本項目ではアルテミスにも関わる星座の話を独立で紹介。カリストというニンフをめぐる話で、ここでは『変身物語』(2.401以下)に基づいてお話いたします。

森に暮らし純潔を重んじる女神アルテミスにつき従うニンフのなかで、とりわけ美しかったのがカリスト。そのカリストを見初め、我がものにしたいと思ったのがゼウス。しかしアルテミスは、取り巻きのニンフたちが男と近づくことも許しておらず、ニンフたちも男を警戒します。

そこでゼウスは、アルテミスの不在時に、アルテミスに化けてカリストにアプローチ。よく牛に化けたり「なぜそれをチョイス?」なゼウスにしては見事な作戦。

カリストはつい警戒心を緩めてしまい、それが本当のアルテミスではないと知ったときにはすでに遅く、ゼウスの子を宿してしまったのです。電光石火のゼウス。そうでないと星の数ほどの女性陣と浮気はできません。

その後、カリストのお腹が大きくなり、アルテミスに気づかれてしまいます。

そもそもゼウスに責任があることをアルテミスが知っていたかどうか、はっきり伝えられていませんが、いずれにせよカリストに落ち度があると判断されたのでしょう。アルテミスはカリストを森に追放してしまうのです。

カリストは子供を生み、アルカスと名づけました。この機を待っていたのが、ゼウスの妻ヘラ。ヘラはゼウスの浮気をずっと前から知っており、カリストに罰を下そうと、適当な時期を見計らっていたのでした。こわいなヘラ。

そしてヘラは、カリストを熊に変身させてしまうのです。息子アルカスは別のところで(一説によるとゼウスによって助けられ、女神マイアに預けられたとも)母を知らぬまま育てられ、立派な狩人となりました。

ある日、アルカスは森に狩に入り熊に出会うのですが、その熊はなぜか逃げようとせずアルカスを見つめてきます。…そう、その熊こそ母のカリストなのでした。

アルカスが熊を槍で貫こうとしたとき、これを天上から見て憐れんだのがゼウス。そもそも自分に責任があるという意識もあったのかわからないが、ゼウスは二人を天空の星座にして、いつも一緒にいられるようにしたのです。

これが、おおぐま座と、こぐま座の由来。おおぐま座は北斗七星を、こぐま座は北極星を含んでいることで有名です。

ちなみにアルカスは、おおぐま座を追う「うしかい座」の由来とされていましたが、おおぐま座の由来である母カリストに合わせて、こぐま座と解されるように。なお、うしかい座を構成する一等星アルクトゥルスは「熊の番人」の意。

ところで、ゼウスはカリストをもとの姿に戻してやらんのかいと、つっこみたくなりますが…ある神がおこなったことを無効にするのは、原則として不可能なのです。

とはいえ、ほかでは神が変身させた者をもとに戻してあげるという話もあるので、神話のなかのルールはあまり厳密にとらえてはいけないのかも。

異伝として、カリストはペロポネソス半島中部の王家の血筋だがゼウスの子を宿し、生まれたアルカスが成長して自らの名から当地に「アルカディア」という地名を与えたとする伝えもあります(パウサニアス『ギリシア案内記』10.9.5. ヒュギヌス『神話集』176)。山岳地で「田舎」だったアルカディア地方ですが、ローマ人によって牧歌的な楽園というイメージで後世に伝えられ、アルカディアは「理想郷」を意味する言葉にもなりました。現在もギリシアにアルカディア県があって、もちろん場所にもよりますがのどかな風景を残しています。

現在の「アルカディア」の一風景(Photo by John Mamaloukos on Unsplash)

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