ディオニュソス/バッカス 酒・祭・狂乱の神(1)

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ディオニュソス、別名バッコスは酒と祭りの神。ローマではバックスと呼ばれたり(英語でバッカス Bacchus)、豊穣の神リベルと同一視されたりしました。父はゼウス、母はテバイの王女セメレ(テバイの創建者カドモスの娘)。古くは髭のある中年男性の姿で描かれていましたが、しだいに髭のない若者としてイメージされるようになります。酒神として酒杯を持ったり、松かさのついた杖テュルソスを携えたりして描かれます。

まずは誕生譚から。ゼウスに愛されたセメレに嫉妬したヘラは、乳母の姿に変身してセメレに近づき、言葉巧みに、ゼウスにある願いを聞き入れさせるようセメレをそそのかしました。それは「本当の姿で私のもとに現れてほしい」ということ。ゼウスは、ステュクス川にかけてどんな願いでも聞き入れると誓ったあとで(ステュクスは冥界を流れる川で、その誓いは破ることができないのです)セメレの願いを聞いてしまったので、やむをえず本当の姿を現すことに。

ギュスターヴ・モロー『ユピテルとセメレ(ゼウスの雷光にうたれるセメレ)』(1894-95年、ギュスターヴ・モロー美術館所蔵、Public Domain via Wikimedia Commons.)

しかしそれは天空神として雷をまとった姿だったため、雷にうたれセメレは死んでしまったのです。  このときすでに彼女はゼウスの子を宿していました。ゼウスは赤子を取り上げ、自分の太ももの中に縫いこんで(なぜに太もも!)、成長させてから生み出しました。この子がディオニュソスで、一説によるとその名は「神(ゼウス)の子」の意。

それからディオニュソスは、ゼウスの浮気に怒るヘラから逃れて各地を巡り、その間に葡萄栽培、葡萄酒の造り方などを覚えると、人々に伝えたという。そしてのちにオリュンポスの神々として迎え入れられたのです。

葡萄酒を人間に伝えたことについては、以下のような逸話があります。ディオニュソスは、ギリシア中西部カリュドンの王オイネウスのもとに客として滞在したときに、オイネウスの妻アルタイアのことが気に入りました。それを察したオイネウスは、いっとき町を離れてディオニュソスとアルタイアが結ばれる機会を作ったといいます。そしてアルタイアはのちにヘラクレスの妻となるデイアネイラを生むことになります。ディオニュソスはこの配慮への感謝から、オイネウスに葡萄の木を与え、その実りをオイノス(「葡萄酒」の意)と呼ぶようにしたというのです(ヒュギヌス『神話集』129)。→続きます

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