ヘファイストス/ウルカヌス 工芸と火の神

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ヘファイストス(ヘパイストス、ヘーパイストスといった表記もあり)は、豊かな髭を生やした中年男性の姿でイメージされる、鍛冶と工芸、火の神。ハンマーや鋏(やっとこ)など鍛冶の道具を持った姿で描かれます。後述するようにローマではウルカヌスと呼ばれました。

詩人ヘシオドス『神統記』ではヘラが単独で生み出した子で(他の伝えではゼウスとヘラの子)、容姿は醜かったと伝えられます。ヘラは、彼を生んだときにその醜さゆえ神族と認めず、オリュンポス山上から彼を投げ落としたというのです(かなりひどい)。

海に落ちた彼は、海の女神テティスに救われ成長。そして工芸の技を身につけ、母への復讐を企てました。

彼は、神にふさわしい豪華な椅子を作ってヘラに贈ります。これにヘラが座ったところ、目に見えない紐に絡まれて動けなくなってしまったのです。そこで神々はヘファイストスを天上に連れてきて、ヘラを解放させたのでした(パウサニアス『ギリシア案内記』1.20.3)。

古代の著述家たちの断片的な記述によると、このときヘファイストスは解放の条件として美の女神アフロディテとの結婚を望み、ゼウスによって認められたという伝えがあったようです。ヘファイストスとアフロディテという、似つかわしくないようにも思える夫婦の成り立ちは、こうした事情で説明されていたわけですね。

いずれにせよ、ヘファイストスは天上に帰ってオリュンポス12神の一柱に。後代では単眼巨人のキュクロプスたちが彼のもとで働く職人とされました。

寝取られと復讐!

アフロディテは夫ヘファイストスが気に入らず、軍神アレスを愛人にしていました。寝取られ神。これを知ったヘファイストスは、目に見えない網を寝台にかけておき、二人の浮気現場を捕らえます。そして他の神々を呼び寄せ、網に絡まって動けない二人を笑いものにしたという(『オデュッセイア』8.267以下)。のち、この「浮気現場」のさまざまなバージョンが描かれることになりました。関連する神々みなにとって不名誉な話のような気もしますが、こういった男女のことは普遍的ですから、ある意味、人気の逸話なのです。こういった角度から興味をひくのもまた、ギリシアの神々。

以下は、ヘファイストス(ウルカヌス)が浮気現場をおさえに来たところ、妻のアフロディテ(ウェヌス、ヴィーナス)は素知らぬ顔、アレス(マルス)がとっさにどこかに隠れた、という絵です。アレス、どこにいるかお分かりでしょうか。

ティントレット『ウルカヌスに驚かされるウェヌスとマルス』(1555年頃、 ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク所蔵。Public Domain via Wikimedia Commons.)

※後世の絵画等では神名が「ローマ名」である場合が多いです。絵画名としてよく用いられる表記を採用しますが、おかげでややこしくなることもあるかと思います。申し訳ございません。

ウルカヌス=ヴァルカン

鍛冶に密接につながる「火」の神であるところから、ローマ名ウルカヌス Vulcanus が「ボルケーノ volcano」すなわち「火山」の語源です。

そして先述のキュクロプスと共に、シチリアのエトナ山など火山の地下を仕事場にしていると想像されるようになりました。ウルカヌスは英語でヴァルカン Vulcan。機関砲の「ヴァルカン砲」の由来でもあるので、ウルカヌス由来の言葉は力強い感じもします。

ちなみに、アメリカのSFドラマ・映画の『スタートレック』に登場する知的な異星人がヴァルカン人。こちらは、優れた技術をもつウルカヌスのイメージに重なっています。

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